~外国人介護人材の教育に、ようやく一つの道筋が見えてきた~
概要
外国人介護人材を採用したものの、何を、どの順番で、どこまで教えればよいのか分からない。
複数の国から来た職員が同じ施設で働き、日本語の理解度や介護経験にも差がある中、教育担当者が手探りで研修を続けている施設は少なくありません。
今回お話を伺ったのは、「動画でOJT介護」を導入して、まだそれほど長い期間が経っていない介護施設です。
現時点で、導入効果を明確な数字として示せる段階ではありません。また、今後の活用方法についても、引き続き検討が必要だと率直に話してくださいました。
それでも、導入前には見えていなかった「外国人職員に何をどう教えるか」という一つの道筋が見え始め、教育する側にも安心感が生まれているといいます。
今回は、この施設へのインタビューを通して、外国人介護人材の教育に動画教材を取り入れる意味と、現場で見え始めた変化について考えます。
一番困っていたのは、外国人職員ではなく「何をどう教えるか」でした
今回インタビューした施設では、留学生、技能実習生、特定技能外国人など、複数の国から来た職員が働いています。
外国人介護人材を受け入れるにあたり、最初に直面したのは、本人たちの意欲や能力の問題ではありませんでした。
施設側が、
「どの程度、日本語を理解しているのか」
「介護について、来日前にどこまで学んでいるのか」
「日本の介護現場に入る前に、何を教えるべきなのか」
を十分に把握できないことでした。
一対一で丁寧に指導したいと思っても、日々の介護業務に追われる中、教育担当者が常に付き添うことは簡単ではありません。
さらに、教える職員によって説明の内容や順序が異なることもあります。熟練した職員にとっては当たり前の行動ほど、言葉にして新人へ伝えることが難しく、指導の中から抜け落ちてしまうこともあります。
そのため、施設では外国人教育の必要性を感じながらも、何を手始めに教えるべきか分からない、いわば暗中模索の状態が続いていました。
そこで、多言語に対応し、日本人職員と外国人職員が同じ内容を学べる教材として、「動画でOJT介護」の導入を決めました。
多言語対応以上に大きかった「同じ教材で学べる」ということ
この施設が導入のきっかけとして挙げたのは、多言語への対応でした。
法定研修を行う場合でも、日本人職員だけではなく、三、四か国の外国人職員が一緒に参加します。しかし、日本語の理解度も、専門用語への慣れも、一人ひとり異なります。
同じ場所で同じ説明を聞いても、理解できる内容には差が生まれます。
その中で、日本語と母国語字幕を切り替えながら、国籍にかかわらず同一の内容を学べることは、大きなメリットだったといいます。
多言語教材というと、「外国人だけが見る特別な教材」と考えられがちです。
しかし、この施設では、日本人も外国人も同じ映像を見て、同じ介護技術や注意点を確認しています。
教材が共通になることで、
「この場面では、なぜ声を掛けるのか」
「この手順には、どのような安全上の意味があるのか」
といったことを、共通の前提から話し合えるようになりました。
言葉が違っても、学ぶ内容は同じです。
この共通の土台ができたことが、職員同士の相互理解にもつながり始めているそうです。
最初に変わったのは、学ぶ側ではなく教育する側でした
導入してからまだ日が浅いため、外国人職員の技術力や定着率がどこまで向上したかについては、現段階では明確に判断できないと施設側は話します。
その一方で、早い段階から感じられた変化がありました。
それは、教育する側の研修内容が整理されたことです。
これまでは、担当する職員がそれぞれの経験をもとに説明していました。
そのため、何を先に教えるのか、どこまで伝えるのか、職員によって違いが生まれることもありました。
動画教材を導入してからは、まず動画で共通の内容を学び、その後、施設の設備や利用者の状態に合わせて説明を加えるという流れがつくりやすくなりました。
動画が教育担当者の代わりになるわけではありません。
しかし、研修の出発点が明確になったことで、教える側の迷いが少し整理されました。
施設側からは、
「外国人職員に何を教えればよいのか分からない状態から、少なくとも最初の一歩は見えるようになった」
という率直な声がありました。
導入効果を全面的に断言できる段階ではありません。
それでも、教育の一つの指針ができたことには、確かな手応えを感じているそうです。
午前中に動画を見て、午後に一緒に実践する
現在、この施設では実技編を中心に、入職後おおむね三か月を目安として一通り学習してもらっています。
代表的な活用方法は、午前中に動画を視聴し、午後に職員と一緒に実技を行うというものです。
動画で手順や注意点を確認したあと、実際の利用者や設備に合わせて介助を行います。
もちろん、動画と現場がすべて同じになるわけではありません。
利用者の身体状況や性格、使用する福祉用具、施設の設備によって、対応は変わります。
しかし、基本となる考え方や安全上の注意を理解していれば、現場に応じた応用がしやすくなります。
「動画を見たから、そのとおりに行う」のではありません。
動画で介助の意味を理解し、そのうえで現場に合わせて考える。
この流れが、施設におけるOJTの一つの形として定着し始めています。
また、一度見ただけで終わるのではなく、実際に介助した後にもう一度動画を確認することで、
「自分はどこまでできていたか」
「何を見落としていたか」
を振り返ることもできます。
動画は研修を完結させるものではなく、実践と振り返りをつなぐ役割を果たしています。
外国人職員だけでなく、日本人職員にも気付きがあった
施設側が具体的に評価していた動画の一つが、車いすに関する内容です。
車いすのセッティング方法だけでなく、空気圧や不具合の確認など、安全に使用するための点検事項が丁寧に紹介されています。
熟練した職員にとっては日常的に行っていることであっても、改めて動画で確認すると、見落としていた部分や、説明できていなかった点に気付くことがあります。
また、利用者への声掛けや、利用者を子ども扱いしないことなど、介護における尊厳や接遇についても、動画の中で具体的に示されています。
こうした内容は、ベテラン職員にとっては「当然のこと」かもしれません。
しかし、当然であるからこそ、教える際には言葉にされず、新人へ伝わらないことがあります。
これは外国人職員だけの問題ではありません。
最近の若い日本人職員にとっても、介護現場で求められる声掛けや距離感、利用者への配慮は、最初から身に付いているものではありません。
施設側は、動画教材について、
「外国人教育のために導入したが、日本人職員にとっても振り返りになる内容が多い」
と感じています。
同じ教材で全職員が学ぶことは、施設全体の介護品質を見直す機会にもなり得ます。
「基礎」という言葉だけでは、この教材の内容は伝わりません
入職後一〜三か月は、介護現場で働くための基礎を身に付け、土台をつくる重要な時期です。
しかし、「基礎」という言葉は、時に「簡単な内容」「初歩的な内容」と受け取られてしまいます。
「基礎であれば、簡単な研修でよい」
「初任者研修の内容を一度確認すれば十分ではないか」
と考える方もいるかもしれません。
しかし、介護の基礎とは、表面的な手順を覚えることではありません。
なぜその姿勢が必要なのか。
なぜその順番で介助するのか。
どのような状態が事故や誤嚥、転倒につながるのか。
利用者の身体にはどのような変化が起きるのか。
声掛けや観察には、どのような意味があるのか。
こうした背景を理解して初めて、現場で応用できる土台になります。
「動画でOJT介護」は、手順を分かりやすく見せるだけの簡略化された教材ではありません。
内容の制作にあたっては、医学、看護、介護それぞれの専門的な視点から、身体の構造や疾患、安全面、感染予防、介助方法などを検証しています。
専門用語や介護技術についても、現場の施設長、介護職、関係する専門職の知見を踏まえ、実際の指導や介護現場で活用できる内容になるよう確認を重ねています。
だからこそ、ここでいう基礎は「簡単な入門」ではありません。
その後の実践や専門的な学習を支える、深さを持った土台です。
多言語化も、単純に翻訳しているわけではありません
多言語字幕についても、日本語をそのまま別の言語へ置き換えているだけではありません。
介護や医療の専門用語には、日常会話では使われない言葉が多くあります。
直訳すると意味が伝わらない表現や、その国では一般的でない介護概念もあります。
そのため、
専門用語の訳が正しいか。
介護現場で意図した意味として伝わるか。
利用者への声掛けが不自然な命令表現になっていないか。
その国の人が読んだ時に、誤解を生まないか。
といった点まで確認しながら制作しています。
多言語対応の目的は、「外国語が表示されていること」ではありません。
外国人職員が、介護の意味と注意点を正しく理解できることです。
施設側が、同じ教材を使って安心して指導できることです。
今回インタビューした施設が、導入段階の教育に一定の安心感を持てるようになった背景には、こうした内容と翻訳の検証もあると私たちは考えています。
今後の成果は、まだ分かりません。それでも道筋は見え始めました
この施設では、今後どのように動画教材を教育へ組み込み、どの程度の頻度で活用していくかについて、まだ検討すべき点が残っています。
すべての職員が自発的に学習するとは限りません。
動画を見ただけで、すぐに技術が身に付くわけでもありません。
施設の教育担当者による声掛けや、実技指導、振り返りも必要です。
だからこそ、施設側も「導入すればすべて解決する」とは考えていません。
ただし、外国人職員を採用したものの、何をどう教えればよいか分からなかった状態から、
まず共通教材で基礎を学ぶ。
その後、現場で一緒に実践する。
できなかった部分を振り返る。
という教育の流れが見え始めたことは、大きな変化です。
完成された成功事例ではありません。
それでも、迷い続けていた教育に一つの方向が生まれたことは、同じ悩みを持つ施設にとって参考になるのではないでしょうか。
私たちも、現場の声をもとに教材を育てていきます
私たちが目指しているのは、動画を導入してもらうことだけではありません。
採用された外国人職員や日本人職員が、介護を学ぶことを負担だけに感じるのではなく、理解できる喜びや、実践できる自信を持てる環境をつくることです。
その学びが、利用者への接し方に表れ、職員同士へ広がり、施設全体の介護品質につながることを願っています。
教育時間の不足や人手不足、賃金、定着など、介護現場には教材だけでは解決できない多くの問題があります。
しかし、忙しいことを理由に教育をおざなりにすれば、外国人職員も日本人職員も安心して働くことはできません。
教育は、現場の負担を増やすためのものではなく、長い目で見れば、教える側と学ぶ側の双方を支えるものです。
現在は、多言語字幕に加えて、実技中も映像へ視線を向けやすい母国語音声付き教材の制作も進めています。ミャンマー語音声版はすでにリリースし、インドネシア語の字幕・音声付き動画も制作中です。
これも、現場から寄せられた「字幕を読むだけでなく、耳から理解できれば、より動作を見やすい」という声を受けた取り組みです。
今回のインタビューで、私たちが最も印象に残ったのは、「動画が良かった」という言葉だけではありません。
教育する側が、何をどう教えるべきか整理しやすくなった。
という言葉でした。
動画は、教育を終わらせるものではありません。
午前中に動画で学び、午後に一緒に実践する。
そして、振り返りのためにもう一度見る。
「動画でOJT介護」という名前には、私たちが目指してきた教育の形が込められています。
外国人介護人材の教育に、唯一の正解はまだありません。
それでも、現場の声を聞きながら、一つずつ道筋をつくることはできます。
私たちの動画が、その最初の一歩を支える一助になれればと考えています。


