重労働、転倒、ヒートショック、溺水――。だからこそ「怖さ」を我慢するのではなく、理由を知り、できることから学ぶ

「入浴介助が苦手です。」

新人の介護職員から、そんな言葉を聞いたことはないでしょうか。

あるいは、言葉には出さなくても、入浴介助になると少し及び腰になる職員がいるかもしれません。

しかし、考えてみれば無理もありません。

浴室は高温多湿です。

床は濡れて滑りやすく、介護職員自身にも転倒の危険があります。

その環境の中で、立った姿勢や中腰、不安定な姿勢を長く続けながら、利用者様の身体を支えなければなりません。

しかも、相手は一人ひとり身体状況が違います。

立位が不安定な方、麻痺のある方、認知症の方、心臓や肺に疾患のある方、

昨日は大丈夫だった方でも、今日は体調が違うかもしれません。

介助する側が少し判断を誤れば、転倒、ヒートショック、やけど、浴槽内での溺水など、重大な事故につながる可能性もあります。

「怖い。」

そう感じること自体は、決しておかしなことではないと思うのです。

利用者様にとっても、入浴は「不安な介護」です

一方、介助を受ける利用者様はどうでしょうか。

人前で裸になることへの羞恥心があります。

身体を見られたくない、触られたくない、そして何より

「この人に身体を預けて、本当に大丈夫だろうか」という不安もあるでしょう。

介護職員が緊張していれば、その緊張は利用者様にも伝わります。

反対に、介護職員がこれから行う介助を理解し、落ち着いて声を掛け、安全に身体を支えてくれれば、利用者様の安心にもつながります。

つまり入浴介助は、利用者様だけが不安なのでも、介護職員だけが大変なのでもありません。

介助する側と、介助される側。双方に身体的・精神的な負担がある介護なのです。

だからこそ、「慣れればできる」「先輩を見て覚える」だけで済ませてよい介護ではないと思います。

それでも、なぜ私たちは「入浴」を大切にするのでしょうか

危険があるなら、入浴させなければよい。

もちろん、そんな話ではありません。

入浴には、身体を清潔にすることだけではない、大切な意味があるからです。

私たちの「動画でOJT介護」では、入浴が身体に及ぼす作用として、温熱作用、静水圧作用、浮力作用について

解説しています。

例えば温熱作用。

身体が温まることで血流が改善され、筋肉の緊張が和らぐことなどが期待できます。

静水圧作用では、水圧によって身体に圧力が加わります。

浮力作用によって、水中では関節や筋肉への負担が軽くなり、身体を動かしやすくなることもあります。

こうして見ると、入浴にはさまざまな良い作用があります。

しかし、ここで大切なのは、

「良い作用がある」だけで終わらないことです。

高齢者の身体では、その作用が逆に負担になる場合があります。

静水圧による圧迫感や息苦しさ。

浴槽から出るときの急激な身体への変化。

浮力によって身体が不安定になることで起こる転倒や溺水の危険。

だから、利用者様の状態によっては湯の水位を調整したり、半身浴やシャワーに変更したりする判断が必要になります。

入浴介助で本当に必要なのは、「こうやって入浴させます」という手順だけではありません。

「なぜ、そうするのか」を理解することなのです。

「怖い」をなくす第一歩は、できる介助からでもいい

では、入浴介助に苦手意識を持つ職員に、最初からすべてを求める必要があるのでしょうか。

私は、そうではないと思います。

そこで今回、改めて注目したいのが手浴と足浴です。

手浴や足浴は、全身浴が難しい利用者様にも行うことができ、全身浴と比べれば

介護職員の身体的な負担も抑えられます。

しかし、そこで学べることは決して少なくありません。

例えば手浴。

介助を始める前に体調や顔色を確認する。

これから何をするのか説明して、利用者様の同意を得る。

ベッドの高さを介助しやすい位置に調整する。

安楽な姿勢をつくる。

そして、お湯の温度を確認する。

ここで重要なのは、

「39~41℃だから大丈夫」と数字だけで判断しないことです。

高齢者は疾患などによって温度の感じ方が異なることがあります。

だから介護職員自身が温度を確認し、さらに利用者様にも確認していただく。

日頃から、その方がどの程度の温度を心地よいと感じるのかを観察することも大切です。

これも立派な介護技術です。

手を洗う。その中にも「観察」があります

手浴では、単に汚れを落として終わりではありません。

指の間、しわ、手首、手のひら、爪、皮膚の状態。

介助しながら観察できることがたくさんあります。

高齢者の皮膚は弱いため、強くこすれば傷や皮下出血につながる可能性があります。

だから、優しく洗う。

必要に応じて保湿をする。

お湯で柔らかくなった爪の状態も確認する。

そして介助をしながら、利用者様と会話をする。

手浴には、清潔保持だけでなく、身体を温め、血行を促し、利用者様の気分を安定させることにつながる面もあります。

「手を洗うだけ」そう考えてしまえば、それまでです。

しかし理由を知れば、そこにはたくさんの介護があることが分かります。

足浴も「足を洗うだけ」ではありません

足浴も同じです。

ボディメカニクスを活用できるよう、まず介護職員の体格に合わせてベッドの高さを調整する。

利用者様には安定した姿勢を取っていただく。

足を温めながら、指の間、足背、くるぶし、踵、足底などを丁寧に確認する。

足白癬や爪白癬などがあれば、感染予防にも注意しなければなりません。

そして足浴後は、特に指の間の水分をしっかり拭き取る。

必要に応じて保湿やケアを行う。

さらに、足を温めることによる身体への作用や、血液循環への影響も考えながら、利用者様の体調を観察する。

一つひとつには、すべて理由があります。

そして、こうした介助の積み重ねの中で、

声掛け、観察、安全確認、感染予防、姿勢、ボディメカニクス。

入浴介助に必要となる基本を少しずつ身につけることができます。

「まだ入浴介助できないの?」ではなく

前回、オムツ交換について考えたときにも触れましたが、介護職員の苦手意識を大きくしてしまうものの一つが、

「まだできないの?」

「なんでできないの?」

という言葉です。

入浴介助も同じではないでしょうか。

怖い理由があるのに、

「慣れれば大丈夫。」

だけでは、その怖さはなくなりません。

必要なのは、「何が危険なのか」「なぜ危険なのか」「どうすれば安全なのか」

を一つずつ理解することです。

そして、いきなり全部をできるようにするのではなく、手浴や足浴のような比較的取り組みやすい介助から、

「できた」という経験を積み重ねる。

その小さな自信が、次の介護へ進む力になるのではないでしょうか。

外国人介護職員なら、なおさら「見て分かる教育」が必要です

これは日本人職員だけの問題ではありません。

外国人介護職員が増えている現在、教育の方法そのものも改めて考える必要があります。

「静水圧作用」「浮力作用」「一過性脳虚血」「白癬」「皮下出血」「ボディメカニクス」。

日本人の新人職員でも、言葉だけで理解するのは簡単ではありません。

日本語を学びながら介護を覚える外国人職員であれば、なおさらです。

だからこそ、

言葉だけで教えるのではなく、

見て、聞いて、動作と理由を結び付けて理解できる教育が必要なのだと私たちは考えています。

なお、手前味噌にはなりますが、そして、動画でOJT介護では、漢字にはルビをふり、専門用語もわかり易く解説してい

ます。さらに母国語の字幕付きでミャンマー語、インドネシア語においては音声外国語版も提供しております。

私たちが「入浴介助」を一つの動画にしなかった理由

私たちの「動画でOJT介護」では、今回ご紹介した内容だけでも、

「入浴が体に及ぼす作用とその影響・効果」

「手浴の介助」

「足浴の介助」

と、それぞれを分けて制作しています。

それは、単に動画の本数を増やすためではありません。

一つひとつの介護について、

何を確認するのか。

どう身体を動かすのか。

どこを観察するのか。

なぜ、その動作が必要なのか。

そこまで理解して初めて、現場で使える知識になると考えているからです。

私たちが作りたいのは、

「見たら終わり」の動画ではありません。

分からなくなったら、もう一度見る。

不安になったら、もう一度確認する。

先輩から指導を受けた後、自分でもう一度振り返る。

そして、

「怖いからやりたくない。」

から、

「なぜ怖いのか分かった。」

「ここに注意すればいい。」

「次はやってみよう。」

へ少しずつ変わっていく。

そのための教材でありたいと考えています。

「苦手」を無理に消すのではなく、その理由を学びに変える

入浴介助には、確かに危険があります。

身体的にも大変な介護です。

だから、「苦手と思ってはいけない」とは、私たちは考えていません。

むしろ、怖いと感じるからこそ、

その理由を知ることが大切なのではないでしょうか。

そして、知識だけでも十分ではありません。

知識と実際の動作を結び付け、

「自分にもできる」という経験に変えていく。

手浴や足浴は、その小さな一歩になるかもしれません。

利用者様にとって安心できる入浴介助。

そして介護職員にとっても、必要以上に怖がらず、自分の身体を守りながら行える入浴介助。

その両方を支えるものが、教育だと私たちは考えています。

「怖いから苦手」を、「分かったから、やってみよう」へ。

私たちはこれからも、介護職員が一歩先へ進むための学びとは何かを考えながら、現場で本当に役立つ教材づくりを続けていきたいと思っています。