その両方を学ぶことから始めませんか。

「タオルを忘れてしまった。」

「ちょっと取りに行って、すぐに戻れば大丈夫。」

ほんの数十秒のつもりだった。

先ほどまで普通に話していた利用者様だから、大丈夫だと思った。

ところが浴室へ戻ってみると、利用者様が浴槽の中に沈んでいた――。

介護施設の入浴介助では、この「少しくらいなら大丈夫」という判断が、取り返しのつかない事故につながる可能性があります。

だから私たちは、

「入浴中は利用者様から目を離してはいけません。」と教えます。

もちろん、それは正しいことです。

しかし、本当にそれだけで事故は防げるのでしょうか。

今回は、これまで取り上げてきた入浴介助からさらに一歩踏み込み、**「もし緊急事態が起きたらどうするのか」、そして「そもそも事故を起こさないためには、どのような教育が必要なのか」**について考えてみたいと思います。

浴室には、いくつもの危険が同時に存在しています

浴室は、介護施設の中でも特に事故への注意が必要な場所の一つです。

床は濡れて滑りやすい。

利用者様は裸で、履物もありません。

浴槽をまたぐ、立つ、座る、身体を洗う、そして温かいお湯につかる。

普段なら問題なく歩いている方でも、浴室では条件がまったく違います。

実際、厚生労働省が公開しているヒヤリ・ハット事例にも、入浴介助中に濡れた床で滑って転倒しそうになった事例などが紹介されています。

事故は決して、特別な施設だけで起きるものではありません。

「いつも大丈夫だから」が、一番怖い

例えば、普段はしっかりしていて、自分で身体を動かせる利用者様。

職員は、

「この方なら少しくらい一人でも大丈夫」と思うかもしれません。

そこで、入浴に必要な物を忘れたことに気づき、浴室を離れる。

しかし、その間に突然体調が変化したらどうでしょう。

あるいは、立ち上がろうとして足を滑らせたら。

浴槽内で意識を失ったら。

介護の現場では、

「昨日まで大丈夫だった」ことが、「今日も大丈夫」である保証にはなりません。

だからこそ、入浴に必要な物品は事前に確認して準備する。

そして入浴介助中は、利用者様から目を離さない。

これは単なる決まりではありません。

その決まりの向こう側に、「起こり得る事故」があるからです。

もし、目の前で利用者様の反応がなくなったら

ここで、もう一つ考えてみたいと思います。

浴槽につかっていた利用者様に声をかけても、返事がない。

「Bさん、大丈夫ですか?」

反応がない。

その瞬間、あなたなら何をしますか。

助けを呼ぶ。

利用者様が溺れないようにする。

周囲の職員や看護職と連携する。

必要に応じて119番通報につなげる。

緊急時には、その場の状況を判断しながら、施設で定められた緊急対応手順に沿って

迅速に行動しなければなりません。

しかし、文章で手順を読んだことがあることと、

目の前で人の反応がなくなったときに動けることは、同じではありません。

頭では分かっていても、突然の出来事を目の前にすると、人は動揺します。

だからこそ私たちは、緊急時の教育では「知っている」だけでなく、実際の場面を想像できるところまで学ぶことが大切だと考えています。

事故が起きた後だけを学んでも、十分ではありません

しかし、ここで少し視点を変えてみます。

緊急時の対応を学ぶことは、とても重要です。

では、

事故が起こる前に、私たちにできることはないのでしょうか。

そこで考えていただきたいのが、「ヒヤリ・ハット」です。

「危なかった。」

「もう少しで転倒するところだった。」

「利用者様から一瞬目を離してしまった。」

「シャワーの温度を確認せず、かけそうになった。」

幸い事故にはならなかった。

だから、「何もなくてよかった」で終わらせる。

実は、ここに大きな問題があります。

「何も起きなかった出来事」の中に、大事故を防ぐヒントがあります

ハインリッヒの法則では、1件の重大事故の背景には、より多くの軽微な事故や、さらに多くのヒヤリ・ハットが存在するという考え方を示しています。

介護現場で大切なのは、「1:29:300」という数字を暗記することではありません。

重要なのは、

小さな異変や失敗を「何も起こらなかったから大丈夫」で終わらせないことです。

例えば、

浴室の床に石鹸の泡が残っていて、職員が滑りそうになった。

利用者様をシャワーキャリーに座らせた状態で、一瞬目を離してしまった。

必要な物品を準備し忘れ、途中で取りに行きそうになった。

利用者様が浴槽から立ち上がった際、少しふらついた。

どれも、その日は事故にならないかもしれません。

しかし、

「なぜそうなったのだろう。」

「次はどうすれば防げるだろう。」

と考え、職員同士で共有することができれば、それは大きな事故を防ぐための情報になります。

厚生労働省も、重大事故が起きる前のヒヤリ・ハットを活用し、施設全体で振り返ることが継続的なリスクマネジメントにつながるとしています。

つまり、

緊急時対応とヒヤリ・ハット教育は、別々のものではありません。

一方は「事故が起きたときに命を守るための学び」。

もう一方は「事故そのものを起こさないための学び」。

この二つはつながっているのです。

「なぜ、そんなことをしたの!」だけで事故は防げるでしょうか

重大な事故につながりかねない行為を職員がしたとき、管理者や指導者が厳しく

注意することはあるでしょう。

人の命を預かる仕事ですから、厳しく伝えなければならない場面もあります。

しかし、

「何度言ったら分かるの。」

「どうしてそんなことをしたの。」

「絶対にやってはいけないと言ったでしょう。」

それだけで終わってしまったら、職員には何が残るでしょうか。

「怒られたくない。」

「失敗を知られたくない。」

「次から報告しない方がいい。」

もし、そのような意識が生まれてしまえば、本来共有すべきヒヤリ・ハットが表に出なくなるかもしれません。

事故防止に必要なのは、失敗した人を探して責めることだけではありません。

なぜ、その行動が危険だったのか。
何が起こる可能性があったのか。
次は、どう行動すればよいのか。

そこまで理解してもらうことが教育ではないでしょうか。

外国人介護職員なら、なおさら「理由」を伝える必要があります

これは外国人介護職員への教育を考えるうえでも重要です。

日本語も違う。

生活習慣も違う。

母国で受けてきた教育も違う。

介護に対する考え方や経験も、一人ひとり違います。

日本人職員でさえ、緊急事態になれば動揺します。

そのような中で、

「危ないからやらないで。」

「これは施設の決まりだから。」

という説明だけで、本当に理解してもらえるでしょうか。

例えば、「入浴中は、数秒でも利用者様から目を離さない」

それを単なる規則として覚えるのではなく、

目を離した数秒の間に、利用者様の意識がなくなることがある。転倒することもある。浴槽内へ沈んでしまう可能性もある。だから離れてはいけない。

そこまで理解できれば、行動の意味が変わります。

外国人職員だから特別なのではありません。

日本人職員にも外国人職員にも、

「どうするか」だけでなく「なぜそうするのか」を伝える。

それが、事故を防ぐ教育の基本だと私たちは考えています。

だから、今回この2つの動画を一緒に見ていただきたいのです

NAIの「動画でOJT介護」には、

入浴編「入浴時に緊急事態が発生した際の対応」があります。

浴室という緊張感のある場所で緊急事態が発生したとき、どのような状況が起こり、

職員が何を考え、どのように対応していくのか。

文章だけでは想像しにくい場面を、映像を通して具体的に学べるようにしています。

そして、もう一つ法定研修セットには、

「ハインリッヒの法則」があります。

こちらでは、重大事故だけを見るのではなく、その前に存在する小さな事故やヒヤリ・ハットに目を向けること、そして報告・共有し、事故防止につなげることの大切さを、事例やイラストを交えながら分かりやすく解説しています。

私たちが今回、この2つを一緒におすすめしたい理由は明確です。

「事故が起きたらどうするか」だけでは足りないからです。

そして、

「事故を防ぎましょう」と言うだけでも足りないからです。

事故が起きたときに対応できること。

事故が起こる前の小さな兆候に気づけること。

そして、その気づきを報告し、職員同士で共有し、次の事故防止につなげられること。

その一連の流れを学んでほしいのです。

動画だからこそ伝えられる「その瞬間」があります

緊急事態について文章を読めば、知識として理解することはできます。

しかし、

利用者様に声をかけても反応がない。

職員が助けを求める。

周囲の職員と連携する。

緊急対応へ移る。

そうした一連の場面を映像で見ると、

「自分だったらどうするだろう」

という意識が生まれます。

私たちは、そこに動画教育の大きな意味があると考えています。

答えを覚えるだけではなく、

場面を見て、考え、自分の行動として置き換えてみる。

さらに外国語字幕を活用することで、日本語だけでは細かな意味を理解しにくい外国人職員にも、視覚と母語を組み合わせながら学んでもらうことができます。

事故が起きないことが、一番です

緊急時の対応をどれだけ学んでも、その知識を実際に使う日が来ないことが一番です。

ヒヤリ・ハットの研修をどれだけ行っても、重大事故が起きないことが一番です。

利用者様が傷つかない。

ご家族が悲しまない。

職員が「あの時こうしていれば」と自分を責め続けなくて済む。

施設も事故対応や信頼回復に追われなくて済む。

そのために教育があります。

事故が起きてから人を責めるための教育ではなく、事故が起きる前に人を守るための教育。

そして、万が一のときには、

「何をすればいいか分からない」ではなく、命を守るための行動につなげられる教育。

私たちは、そんな教育を介護現場に届けたいと考えています。

「入浴時に緊急事態が発生した際の対応」と「ハインリッヒの法則」。

一見すると別々のテーマに見える二つの動画ですが、その根底にある目的は同じです。

利用者様を守ること。
介護職員を守ること。
そして、事故を一人の責任で終わらせず、施設全体の学びへ変えていくこと。

「知っている」から「できる」へ。

そして、

「事故が起きてから対応する」から「事故が起きる前に気づく」へ。

そのための学びとして、この2つの動画を、ぜひ一緒に活用していただきたいと思っています。


参考資料

厚生労働省「介護現場におけるリスクマネジメントについて」
厚生労働省「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」
厚生労働省「福祉用具ヒヤリハット事例集」