― 老化を知ることは、その人らしさと尊厳を守る介護の第一歩
「高齢だから、耳が遠いだろう」
「昨日のことは覚えていないかもしれない」
「足腰が弱っているから、車いすの方が安全だろう」
介護の現場では、ご利用者様のことを考えて、このように判断することがあります。
しかし、それは本当に目の前の「その方」を見て判断したものでしょうか。
それとも、「高齢者とはこういうもの」という、自分の中にあるイメージから判断してはいないでしょうか。
介護職員にとって、ご利用者様の身体に起きている変化をすべて実感として理解することはできません。
自分には聞こえる音が聞こえない。
自分なら簡単に立てる場所で立ち上がれない。
以前なら覚えていられたことを思い出しにくくなる。
経験していないのですから、分からない部分があるのは当然です。
だからこそ、「老いるとはどういうことなのか」を知識として学ぶことが、介護の第一歩になるのではないでしょうか。
「加齢」と「老化」は同じではありません
加齢とは、生まれてから年齢を重ねていくことです。
乳幼児から少年・少女へ、青年から壮年へと成長していくことも加齢です。
一方、老化とは、年齢を重ねることに伴って心身の機能に変化が生じていく過程を指します。
厚生労働省の「介護の特定技能評価試験学習テキスト」でも、老化はすべての人に起こり、その特徴として「個人差がある」「病気にかかりやすくなる」「生活習慣の影響を受ける」ことが示されています。
NAI「動画でOJT介護」では、さらに「生理的老化」と「病的老化」という視点から老化について説明しています。
生理的老化とは、病気や事故などの影響ではなく、加齢に伴って自然に起こる心身の変化です。
例えば、筋肉量や免疫力の低下、視力・聴力の変化、皮膚の乾燥、喉の渇きを感じにくくなることなどがあります。
一方、病気によって心身機能の低下が進む場合もあります。
ここで大切なのは、こうした知識を身につけたからといって、
「高齢者はみんなこうなる」
と考えないことです。
同じ年齢でも、同じ状態ではありません
同じ80歳でも、身体の状態や生活する力は一人ひとり違います。
小さな声でも十分聞き取れる方もいます。
昨日あった出来事を細かく覚えている方もいます。
杖も車いすも使わず、自分で歩ける方もいます。
反対に、年齢だけを見れば比較的若くても、病気などによって多くの支援を必要とする方もいます。
だから、
「高齢だから耳が遠いだろう」と大声で話す。
「きっと覚えていないだろう」と何度も確認する。
「危ないから」と本人に聞く前に車いすを用意する。
こうした対応は、職員に悪意がなくても、本人には、
「年寄り扱いされた」
「できないと決めつけられた」
と感じられるかもしれません。
良かれと思った介助が、その方の自尊心を傷つけたり、
まだ持っている力を使う機会を奪ったりすることもあるのです。
老化の知識は、「決めつけるため」ではありません
介護施設では、毎日、多くの高齢者の方と接します。
そのため経験を積むほど、
「こういう年齢なら、このくらいだろう」
と過去の経験から判断したくなることもあるでしょう。
経験そのものは大切です。
しかし、目の前にいる方が、以前担当した方と同じとは限りません。
年齢や性別が同じでも、育った環境、仕事、家族、趣味、生活習慣、病歴、大切にしてきた価値観は違います。
老化について知る目的は、高齢者を分類するためではありません。
「こういう変化が起こる可能性がある」と知ったうえで、
実際にこの方には何が起きているのかを見るための知識です。
「高齢者だから何ができないか」ではなく、
「この方は何ができて、どこに支援が必要なのか」。
その視点が、自立支援や尊厳を守る介護につながります。
外国人介護職員が増える今、「良い介護」の違いも考える
現在の介護現場では、日本人だけでなく、さまざまな国や文化的背景を持つ職員が働いています。
そこで知識とともに考えたいのが、「何をしてあげることが良い介護なのか」という感覚も、
人によって異なるということです。
高齢者が時間をかけて立ち上がろうとしているとします。
ある職員は、
「本人ができることだから見守ろう」
と考えるかもしれません。
一方、別の文化や家庭環境で育った職員から見れば、
「大変そうなのに、なぜすぐに手伝ってあげないのだろう」
と感じることもあるでしょう。
高齢者との距離感や言葉遣いについても同じです。
家族のように親しく接することを「温かい」と感じる人もいれば、
一定の距離を保ち、丁寧な言葉で接することを「相手を尊重している」と考える人もいます。
これは「日本人だから」「外国人だから」と簡単に分けられるものではありません。
国だけでなく、家庭環境や経験、個人の価値観によっても違うからです。
大切なのは、どちらが正しいと決めることではありません。
同じ施設で介護をする以上、「なぜこの介助をするのか」という基本的な考え方を共有することです。
厚生労働省も、外国人介護人材向けに、介護の知識や日本語を学ぶための
多言語教材・学習コンテンツを整備しています。
「高齢者だから」ではなく、「この方だから」
NAI「動画でOJT介護」では、加齢と老化の違い、生理的老化と病的老化、
そして老化の個人差について学べる内容としています。
しかし、覚えてほしいのは、
「年を取ると視力が低下する」
「筋力が落ちる」
「記憶力が低下する」
という知識だけではありません。
その変化の現れ方は、一人ひとり違うということです。
知識を持ったうえで、その方を見る。
できないことだけでなく、できることを見る。
必要な部分を支え、できることまで奪わない。
私たちは誰もが年齢を重ねていきます。
けれど、同じように年を重ね、同じように老いていく人は一人もいません。
だからこそ、
「高齢者だから」ではなく、「この方だから」。
その人の今の状態と、これまで歩んできた人生を一人ひとり見ようとすること。
それが、老化を理解する本当の意味であり、その人の尊厳を守る介護の第一歩なのではないでしょうか。
参考資料
厚生労働省「介護の特定技能評価試験学習テキスト 改訂版」
第2章「介護を必要とする人の理解」―「老化の基礎的理解」




