― 介護職員が「できる医行為・できない医行為」を知る意味

「苦しそうだから、何とかしてあげたい」

介護職員であれば、目の前のご利用者様を見て、そう思うのは自然なことではないでしょうか。

例えば、何日も排便がなく、苦しそうにしているご利用者様がいる。

医師も看護師も、その場にはいない。

介護経験の長い職員なら、

「摘便をすれば楽になるのではないか」

と思うかもしれません。

確かに、それによって一時的に苦痛を軽減できる可能性はあります。

しかし、「できそうだから行う」「ご利用者様のためだから行う」では済まされないのが、

医療に関わる行為です。

介護職員には、行うことが認められている行為と、医師や看護職員など医療職でなければ

行えない行為があります。

NAI「動画でOJT介護」座学編の「医行為と介護」では、その境界について具体的な例を交えながら解説しています。

なぜ介護職員が医療に関する知識を必要とするのか

高齢化が進み、医療的なケアを必要としながら、病院ではなく在宅や介護施設で

生活する高齢者もいます。

そのため介護職員も、日常的に体温や血圧を測ったり、服薬を支援したり、医療的ケアを必要とする方に関わったりする機会があります。

だからこそ、「介護職員はどこまで行ってよいのか」

を正しく理解しておく必要があります。

厚生労働省は、一定の条件のもとで「原則として医行為ではない」と考えられる行為を示し、安全に実施するためのガイドラインも公開しています。そこでは、こうした行為も介護職員が医療職と連携しながら行うものであることが明記されています。

日常の介護にも、医療と接する場面があります

例えば、一定の条件のもとで原則として医行為ではないとされるものには、

体温測定、自動血圧測定器による血圧測定、パルスオキシメーターの装着、軽微な傷の処置、爪切り、日常的な口腔ケア、一定範囲の耳垢除去などがあります。

ストーマ装具についても、状態が安定しているなど専門的な管理を必要としない場合、その交換は原則として医行為には該当しないとの厚生労働省の見解が示されています。ただし、実施にあたっては医師または看護職員との密接な連携が求められています。

ここで重要なのは、

「この行為は介護職員ができる」と、行為の名前だけで判断しないことです。

同じ爪切りでも、爪や周囲の皮膚に異常がある場合や、疾患に伴う専門的な管理が必要な場合では

状況が変わります。

つまり、「何をするか」だけではなく、「誰に、どのような状態で行うのか」まで

考えなければなりません。

薬の介助にも「条件」があります

軟膏の塗布、点眼、内服、坐薬の挿入、鼻腔への薬剤噴霧などについても、何でも介護職員が

自由に行えるという意味ではありません。

ご利用者様の病状が安定していること、医師または看護職員による継続的な経過観察が必要ではないこと、薬の使用方法そのものについて専門的な配慮を必要としないことなど、一定の条件を確認したうえでの対応となります。

そして、介護職員自身が薬の種類や量を判断するわけではありません。

ここにも、介護と医療の大切な境界があります。

喀痰吸引や経管栄養は「誰でもできる介護」ではない

介護施設では、痰の吸引や胃ろう・腸ろうなどによる経管栄養を必要とするご利用者様もいます。

これらは医療的ケアにあたり、通常の介護業務として、誰でも自由に行えるものではありません。

一定の研修を修了した介護福祉士や介護職員が、必要な認定や事業者側の登録など制度上の要件を満たし、医師の指示や医療職との連携のもとで実施する必要があります。

つまり、「施設で必要だから、介護職員が行う」のではありません。

必要な知識と技術、資格・研修、連携体制があって初めて実施できるものなのです。

「経験があるから」は、医療的判断をしてよい理由にはならない

そして、特に注意したいのが、介護職員が行ってはいけない医行為です。

例えば、摘便、褥瘡に対する専門的な処置、インスリン注射、穿刺を伴う血糖測定などは、介護職員が自らの判断で行うものではありません。

ここで冒頭の場面に戻ってみましょう。

排便できず苦しんでいるご利用者様を前にして、

「自分は介護経験が長い」

「以前、看護師がしているところを見た」

「今すぐ何とかしてあげたい」

と思ったとしても、それだけで摘便を行ってよいことにはなりません。

摘便には腸管を傷つけ、出血などを生じさせる危険があります。

何より介護職員は、摘便を実施すべきかどうかを医学的に判断する立場ではありません。

善意と、安全な介護は、必ずしも同じではないのです。

「やらない」という判断も、ご利用者様を守る介護です

介護の仕事をしていると、

「目の前で困っているのだから、何かしてあげなければ」

という気持ちになることがあります。

しかし、医療に関わる場面では、

「自分が何とかする」ことより、「自分の判断で行ってはいけないことを知っている」

ことの方が重要な場合があります。

分からなければ確認する。

異常があれば報告する。

判断に迷えば、医師や看護職員に相談する。

厚生労働省の通知でも、病状が不安定で専門的な管理が必要な場合には医行為となり得ること、病状の急変などがあれば医師・歯科医師・看護職員へ連絡するなど必要な措置を速やかに講じることが示されています。また、体温や血圧などの測定値をもとに投薬の要否などを医学的に判断することは医行為とされています。

これは、「何もしない」という意味ではありません。

適切な人につなぐことも、介護職員に求められる大切な専門性です。

大切なのは、「できる・できない」の丸暗記ではありません

NAI「動画でOJT介護」の「医行為と介護」では、介護職員が行える行為、一定の条件が必要な行為、研修や認定等が必要となる医療的ケア、そして介護職員が行ってはいけない医行為について、具体例を通して学べるようにしています。

しかし、このテーマで最も大切なのは、一覧を丸暗記することではないと思います。

制度や通知を正しく理解し、施設内の手順や医療職との連携体制を確認する。

そして目の前のご利用者様の状態を見ながら、

「これは自分が行ってよいことなのか」

「医療職の判断が必要ではないか」

と立ち止まることです。

「ご利用者様のために」という思いは、介護の原点です。

だからこそ、その思いだけで越えてはいけない一線があります。

介護のプロとは、何でもできる人ではありません。

自分ができることと、してはいけないことを理解し、必要なときには医療職に

つなぐことができる人。

その判断もまた、ご利用者様の命と安全を守る、大切な介護技術なのではないでしょうか。

参考資料:厚生労働省 原則として医行為ではない行為について

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/gensoku_ikoui.html