― 介護だから仕方がない、ではなく。ご利用者様の「見られたくない」「知られたくない」を守るために。
施設で、ご利用者様たちがレクリエーションを楽しんでいます。
その途中、一人のご利用者様が、そわそわした様子を見せました。
それに気づいた介護職員が声をかけます。
「○○さん、トイレですね。一緒に行きましょう。」
ご利用者様の変化に気づき、すぐに対応しようとした親切な行動です。
職員に悪意などありません。
しかし、その言葉が周囲の人にも聞こえていたらどうでしょうか。
本人は、自分がトイレに行きたいことを、ほかの人には知られたくなかったかもしれません。
「そんなことまで気にする必要があるの?」
と思われるかもしれません。
でも、自分自身に置き換えてみるとどうでしょう。
人前で排泄について大きな声で話されたら、決して気持ちのよいものではありません。
介護を必要とするようになったからといって、その恥ずかしさや羞恥心までなくなるわけではないのです。
今回取り上げるNAI「動画でOJT介護」の座学編「ご利用者様のプライバシーの保護」では、このような身近な事例をアニメーションで紹介しながら、介護現場で守るべきプライバシーについて考えます。
介護が必要になるほど、他人に知られることが増えていく
私たちは普段、自分のプライバシーを自分で守っています。
トイレに入れば扉を閉めます。
着替えるときは人から見えない場所を選びます。
自分の部屋の引き出しを、他人が勝手に開けることもありません。
病気のことや家族のことを誰に話すのかも、自分で決めます。
ところが介護が必要になると、それまで自分一人で行っていた生活の中に、介護職員の手を借りなければならない場面が増えていきます。
排泄、入浴、衣服の着替え、服薬、身体の状態、病歴、家族関係。
介護度が高くなるほど、介護職員はその人の非常に私的な領域まで知る必要があります。
だからこそ、
「仕事だから見てもよい」
「介護だから知っていて当然」ではありません。
必要な介護を行うために、本人の私的な領域へ立ち入らせていただいている。
この意識がとても大切なのではないでしょうか。
カーテン一枚にも、その人の尊厳があります
例えば、おむつ交換や着替え。
カーテンやパーテーションをきちんと閉める。
身体を必要以上に露出させない。
入浴の前後や移動中は、バスタオルなどで身体を覆う。
使用済みの排泄用品を、ほかの利用者様から見える場所に置かない。
どれも特別に難しい介護技術ではありません。
だからこそ、忙しい現場では、
「すぐ終わるから」、「少しくらいなら」となってしまうことがあります。
しかし、もし自分がおむつを交換される側だったら。
着替えを手伝ってもらう側だったら。
自分の身体や排泄物を他人に見られる立場だったらどう感じるでしょうか。
介護を受ける人にも、見られたくないものがあります。
身体機能が低下しても、認知症になっても、その人の尊厳まで失われるわけではありません。
「話す場所」にも注意が必要です
介護現場では、職員同士の情報共有が欠かせません。
だから例えば、「○○さん、今日はまだ排便がありません」
という情報を共有すること自体が悪いわけではありません。
問題は、
誰に、どこで、何のために伝えているのかです。
ほかのご利用者様や面会者がいる場所で、排泄状況や病歴、家族関係について大声で話す必要はありません。
介護では、必要な情報を共有しなければ、安全なケアができないことがあります。
一方で、ケアに必要のない人にまで情報を広げる必要もありません。
つまり、プライバシー保護とは、
「何も話さないこと」ではなく、「必要な情報を、必要な人と、必要な範囲で共有すること」でもあります。
ここは非常に難しい部分ですが、介護の専門性が問われるところでもあります。
ノックをすることも、立派なプライバシー保護です
介護施設の居室は施設の中にあります。
しかし、ご利用者様にとっては「自分の生活の場」です。
そのため、ノックや声かけをせずに部屋へ入る。
本人の許可なく引き出しを開ける。
タンスの中を見る。
手紙や私物に触れる。
こうした行動にも注意が必要です。
介護に必要な場合はあります。
しかし、「施設の物だから」「介護職員だから」何をしてもよいわけではありません。
施設で暮らしていても、その部屋はその人の生活空間です。
この感覚を忘れないことが大切です。
SNSの時代だからこそ、施設の外でも気をつけたい
現在では、介護施設もSNSやホームページを活用しています。
行事の写真、ご利用者様の笑顔、楽しそうなレクリエーション。
施設の雰囲気を伝えるためには、とても有効です。
しかし、写真には顔だけでなく、背景、名札、室内の様子など、本人を特定できる情報が映り込むことがあります。
施設のSNSやパンフレットなどに写真を掲載するときは、本人や家族への説明・同意、施設のルールに基づいた適切な管理が必要です。
また、職員が勤務後に、「今日、施設でこんな人がいてね……」
と家族や友人に話すことにも注意が必要です。
名前を言わなければ何でも話してよいとは限りません。
仕事で知った情報は、職場を出たからといって「自由に話してよい情報」になるわけではありません。
令和8年4月、医療・介護分野の個人情報ガイダンスも改正されました
制度面でも、介護施設には継続した対応が求められています。
令和8年4月、「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」が一部改正されました。個人情報保護委員会と厚生労働省が公表している現在のガイダンスでは、介護保険法に基づく被保険者番号等も「個人識別符号」の具体例として示されています。
今回の改正の背景には、令和5年の介護保険法改正があります。全国有料老人ホーム協会も、介護保険被保険者証に記載される保険者番号・被保険者番号の適切な取扱い、必要に応じた個人情報取扱規程等の見直し、職員への周知・研修を事業者に呼びかけています。
重要なのは、
「管理者が法律を知っていればよい」
という話ではないことです。
実際に利用者情報を扱う職員一人ひとりが「この情報はどう扱うべきなのか」
を理解する必要があります。
令和8年7月には、個人情報保護法そのものも改正
さらに令和8年7月10日、「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、
7月17日に公布されました。
ただし、ここは注意が必要です。
この改正法は、一部を除き、公布日から2年以内で政令により定める日に施行されます。現時点では、今後の施行に向けて政令、規則、ガイドライン等の検討が続けられています。
したがって、介護施設としては、「令和8年に法律が変わったから終わり」
ではなく、今後公表される具体的な内容を継続して確認していくことが必要になります。
法律を守るためだけの「プライバシー保護」ではありません
個人情報保護という言葉を聞くと、
情報漏えい、個人情報保護法、PCの管理、書類の保管。
そんなことを思い浮かべるかもしれません。
もちろん、すべて重要です。
しかし介護現場のプライバシーは、もっと日常の中にあります。
トイレに行くことを大声で言わない。
着替えるときにカーテンを閉める。
部屋に入る前にノックする。
本人の持ち物を勝手に見ない。
病気や排泄のことを、人前で話さない。
一つひとつは小さな行動です。
けれど、その一つひとつが、「自分は一人の人間として大切にされている」
という安心につながるのではないでしょうか。
介護を必要とすることと、プライバシーを失うことは同じではない
いつか私たち自身も、介護を受ける側になるかもしれません。
一人でトイレに行けなくなる。
着替えを手伝ってもらう。
入浴にも人の手を借りる。
そんな日が来るかもしれません。
そのとき私たちは、「介護されているのだから仕方がない」
と、すべてを見られ、すべてを知られても平気でしょうか。
おそらくそうではないと思います。
手を借りなければ生活できなくなっても、
見られたくないことがある。
知られたくないことがある。
人前では話してほしくないことがある。
介護を必要とすることと、プライバシーを失うことは同じではありません。
NAIの「動画でOJT介護」座学編「ご利用者様のプライバシーの保護」では、トイレでの声かけや入浴、更衣など、介護現場で起こり得る身近な場面をアニメーションで紹介しています。
難しい法律を覚えるためではなく、
「なぜ、この言葉や行動が相手を傷つける可能性があるのか」
を考え、自分自身の介護を振り返るための約7分の教材です。
ご利用者様の身体や安全だけでなく、
「見られたくない」
「知られたくない」
「人前では話してほしくない」
という気持ちまで守ること。
それもまた、介護における人権と尊厳の保持だと私たちは考えています。
参考・引用資料
個人情報保護委員会・厚生労働省
「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」
令和8年4月一部改正。介護事業者における個人情報の基本的な取扱い、個人識別符号等について
個人情報保護委員会
「医療・介護関係事業者が取り扱う『個人識別符号』には、具体的にどのようなものがありますか」
介護保険法に基づく被保険者証の番号・保険者番号等について
公益社団法人 全国有料老人ホーム協会
「『医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス』の一部改正について」
令和8年4月改正に伴う、事業者側の規程見直しや職員への周知・研修等について




