概要

日本の介護現場において、外国人介護人材はもはや「特別な存在」ではなくなりました。EPA、技能実習、特定技能、在留資格「介護」と、入り口は複線化し、施設に入れば日本人職員と肩を並べてシフトに入り、夜勤を担い、看取りにも立ち会う。そんな光景は、ごく当たり前のものになっています。

さらに2025年以降、特定技能の外国人介護職員にも訪問介護の門戸が開かれる方向で議論が進み、活躍の場は施設の中から、利用者の自宅へと広がろうとしています。制度は、確かに整いつつあります。

しかし、制度が整うことと、現場が整うことは、同じではありません。

私たちが立ち止まって考えたいのは、ただ一点です。

「安心して介護を任せられる環境」は、本当に整っているのでしょうか。

これは、外国人だから、という話ではありません。むしろ、外国人材の受け入れが拡大していくこのタイミングだからこそ、介護という仕事そのものの「教育」を、もう一度見つめ直す必要があるのではないか。本稿は、そんな問いかけから始まります。


外国人介護人材は"人手不足を補う存在"ではない

介護人材の不足は、毎年のように「過去最大」が更新されていきます。有効求人倍率は他産業を大きく上回り、地方では募集をかけても日本人の応募が一件も来ない、という施設も珍しくありません。

そうした中で、ミャンマー、インドネシア、ベトナム、フィリピン、ネパール、モンゴル、カンボジア…さまざまな国から来日した介護職員が、利用者の生活を支える大切な役割を担うようになっています。

ただ、ここで一度立ち止まりたいのです。

「日本人が集まらないから、仕方なく外国人にお願いする。」

この考え方で受け入れを進めてしまうと、結果として誰も幸せにならない現場ができあがります。それは、来日した職員に対して失礼であるだけでなく、彼ら・彼女らに介護される利用者にとっても、同じ職場で働く日本人職員にとっても、健全な環境とは言えません。

介護は、人の尊厳に直接触れる仕事です。食事、排泄、入浴、看取り。どれ一つとして、片手間でできるものはありません。だからこそ、その仕事に従事する人が、国籍に関係なく誇りを持てること。日本人職員がその働きに敬意を払えること。お互いを「同じ専門職」として尊重し合えること。

それが、これからの介護現場に求められる、最低限のスタートラインだと私たちは考えています。


利用者が本当に求めているのは「日本人」でしょうか

少し、立場を入れ替えて想像してみてください。

自分の親が、ある日突然介護を必要とする状態になったとします。あるいは、自分自身が介護を受ける側になったとします。

ご家族の中には、率直に「できれば日本人にお願いしたい」と感じる方もいるでしょう。その気持ちは、否定されるものではありません。

ただ、その本心をていねいに掘り下げていくと、多くの場合、こう言い換えられるのではないでしょうか。

「日本人だから安心」なのではなく、 「安心して任せられる人に、お願いしたい」。

実際、日本人の介護職員であっても、

  • 経験年数の差
  • 解剖学・疾病理解などの知識の差
  • 移乗・体位変換などの技術の差
  • 言葉づかいや接遇の差

によって、利用者や家族が不安を感じる場面は、現場では日常的に起きています。「日本人だから安心」「外国人だから不安」という二項対立は、実態を正しく説明できていません。

利用者と家族が本当に求めているのは、国籍ではなく、誰が担当しても一定水準で安心できる介護品質であり、その品質を支える教育です。


共に働くために必要なのは、結局のところ「教育」

外国人介護職員の中には、日本で長くキャリアを積み、リーダーや指導役にまで成長する方がいます。一方で、数年で帰国したり、介護以外の仕事に移っていく方もいます。

その理由を、一括りに語ることはできません。

  • 思い描いていた仕事内容とのミスマッチ
  • 人間関係を含めた職場環境
  • 専門用語や方言を含む、言葉の壁
  • 体系的に学ぶ機会がない、教育環境の問題
  • 家族の事情や、母国の経済状況の変化

要因は何重にも絡み合っています。だからこそ私たちは、原因を「言葉のせい」「文化のせい」と決めつけるのではなく、まず自分たちの側でコントロールできる「教育環境」から整えることを大切にしています。

  • 日本の介護技術(移乗、体位変換、口腔ケア、食事介助 等)
  • 利用者一人ひとりに合わせた声掛けと観察
  • 安全確認、ヒヤリハットの捉え方
  • 「お辞儀」「言葉づかい」「家族との距離感」といった、日本独自の介護文化

これらを、母国語の解説も交えながら、分かりやすく、何度でも見返せる形で提供する。そうすれば、日本人職員も外国人職員も同じ基準・同じ言葉で学ぶことができます。指導者によって教え方がバラつく、いわゆる「先輩ガチャ」のような問題も、ここで初めて緩和されていきます。


私たちが動画を作り続ける理由

私たちは、介護技術を「分かりやすく伝えること」を目的に、医学的根拠の確認、専門用語の検証、現場での実践を何度も往復しながら、動画教材を制作してきました。

派手な演出よりも、

  • 一つひとつの手順の根拠
  • なぜその声掛けが必要なのか
  • どこを間違えると事故につながるのか

を、地味でも丁寧に積み上げていくことを大切にしています。

その積み重ねの中で、動画教材を活用しながら国家試験対策を進めたミャンマー人・インドネシア人の介護職員が、介護福祉士国家試験に合格するという成果も生まれました。

私たちは、この結果を単に「合格者◯名」と数えるつもりはありません。母国を離れ、日本語で、専門知識を学び、国家試験に挑む。そのハードルの高さを知っているからこそ、伝えたいことは一つです。

正しい教育環境があれば、人は国籍に関係なく成長できる。

その可能性を、現場で働く彼ら・彼女らが、自らの努力で証明してくれたのです。

そして今回、その学習環境をさらに前へ進めるため、ネイティブ監修済みのミャンマー語字幕に加え、ミャンマー語音声版の提供を開始しました。

字幕だけだと、どうしても画面の下に視線が落ち、肝心の手技から目が離れてしまいます。音声で耳から理解できれば、学習者は手元と利用者役の動きに集中できる。「言語の壁」を、実技学習の邪魔にしない。そのための取り組みです。

今後はインドネシア語をはじめ、ベトナム語、クメール語など、現場のニーズに合わせて多言語展開を進めていく予定です。


教育が変われば、介護の未来も変わる

外国人介護人材は、これからの日本の介護を支える大切な仲間です。だからこそ、議論すべきは「採用するか・しないか」ではなく、採用したあと、どう育てるかです。

  • 利用者と家族が、担当者の国籍に関係なく安心して介護を受けられること
  • 外国人職員が、自分の仕事に誇りを持って働き続けられること
  • 日本人職員が、安心して同じチームの一員として共に働けること

この三つを同時に成立させる土台が、教育だと私たちは信じています。

介護の未来を変えるのは、新しい制度や派手なスローガンではありません。一人ひとりの職員が、母国語に関係なく正しく学び、同じ目線で利用者に向き合える――そんな地味で、しかし揺るぎない教育環境こそが、これからの日本の介護を静かに変えていくはずです。

動画でOJT介護実技編ミャンマー語版ミャンマー語音声版のサンプル動画です

動画でOJT介護の説明はこちらから