以前の記事では、介護未経験だった私が「動画でOJT介護」の制作を通して、介護について一から学んだ経験についてお話ししました。
制作を始めた当初は、介護の知識がほとんどなく、「なぜここでこうするのだろう?」という疑問ばかり。テキストや教本を読み、専門家の方に教えていただきながら、介護技術や認知症、介助を行うときの考え方などを必死で勉強していきました。
そんな中、お客様から「資格を取る必要のないパートさんにも見せたい」というご相談をいただいたことがあります。
詳しくお話を伺うと、その施設ではパート職員の方にも、おむつ交換など、一部の介助をお願いしているとのことでした。
「資格を取る人ほど、細かいところまで覚えてもらう必要はない。でも、暗記するほど覚えてもらう必要はないけれど、知っている・知らないで負担が違うから」
その言葉が、当時の私にはとても印象に残りました。
介護職員として必要な知識をすべて身につける必要はなくても、少しでも介護について知っていることで、実際に介助をするときの不安や戸惑いは変わるのかもしれない。そんなことを考えながら、「動画でOJT介護」の制作を続けていました。
そして、その「知っていることの大切さ」を、私は家族の介護を通して実感することになります。
祖父の介護が始まって、初めて実感したこと
制作からしばらくして、私の祖父にも介護が必要になりはじめました。
それまで畳に布団を敷いて寝ていた祖父が、介護ベッドを使うようになりました。転ばないようにトイレまで連れていったり、おむつの介助をしたり、それまでとは生活の様子が少しずつ変わっていきました。
介護についての前知識がほとんどなかった母にとっては、一つひとつが大変そうでした。
「どうしたら安全なんだろう」「こういうときはどうしたらいいんだろう」と、その都度考えなければなりません。介護は、実際にその立場になってみないと分からない大変さが多数あります。
そんなとき、私は「動画でOJT介護」の制作のために勉強していたこともあり、少し違った見方ができていました。
特に役立ったのが、認知症についての知識です。
認知症について知っていたから、少し冷静に考えられた
認知症にはさまざまな症状があります。
認知機能が低下することだけではなく、記憶障害や見当識障害、妄想など、本人や周囲の人が戸惑うような症状が見られることもあります。また、認知症と似た症状が見られる「せん妄」や「うつ病」などもあり、それぞれ特徴や原因が異なります。
「動画でOJT介護」の制作をしていなければ、私はこうしたことを詳しく知る機会がなかったと思います。
祖父の認知症が進んでいく中でも、言動に戸惑うことはありました。それでも、何も知らなかった頃の自分だったら「どうしてこんなことを言うんだろう」と思っていたかもしれない場面で、「認知症の症状として起きていることなのかもしれない」と、少し冷静に考えられることがありました。
例えば、認知症の症状の一つに「ものとられ妄想」があります。自分の大切なものを誰かに盗られたと思い込んでしまう症状です。
幸い、祖父の自宅介護では、そうした症状は見られませんでした。ただ、もし私がこの症状について何も知らないまま、温厚な祖父から突然「〇〇を盗られた」などと疑いの目を持たれてしまったら、かなり戸惑っていたと思います。「そんなはずはない」と否定してしまっていたかもしれません。
もちろん、認知症について知識があったからといって、介護が簡単になったわけではありません。認知症が進んでいく祖父の介助は、やはり大変でした。
それでも、「祖父だけがおかしくなったわけではなく、認知症ではこうしたことが起こる場合がある」と知っていることで、目の前の出来事を少し違った角度から見ることができました。
介護する側にとって、これは意外と大きなことなのではないでしょうか。
何が起きているのか分からないまま対応するのと、「こういう症状がある」と知ったうえで対応するのでは、気持ちの持ち方が違います。
「祖父だけではなく、こういう症状が出る人もいるんだ」と思えることが、心の負担を少し軽くしてくれることもありました。
「傾聴・受容・共感」は、介護を離れても役立つ
介護について勉強する中で、私が印象に残った知識の一つに「傾聴・受容・共感」があります。
相手の話を聴くこと、相手の言葉や気持ちを否定せずに受け止めること、そして相手の立場になって考えること。
最初は介護現場で必要な考え方として覚えていたのですが、実際に生活の中で意識するようになってから、「これは介護だけの話ではないな」と思うようになりました。
相手が何を言いたいのかをまず聞いてみる。すぐに否定するのではなく、「そう感じているんだな」と受け止めてみる。こうしたことは、家族との関係だけでなく、普段の人間関係でも大切なことです。
介護の知識というと、おむつ交換や移乗の介助、食事の介助などの「介護技術」を思い浮かべる方も多いと思います。私も制作を始めるまでは、介護を学ぶということは、そうした技術を覚えることだと思っていました。
でも、実際に勉強して、家族の介護も経験してみると、それだけではないことに気づきました。
介護について知ることは、介助の方法を覚えるだけではなく、「目の前の人をどう見るか」「起きていることをどう受け止めるか」という、自分自身の心の持ち方にもつながるのだと思います。
資格を取らない人にも、介護を「知る」機会を
「動画でOJT介護」では、介護技術や座学を動画で学べるだけではなく、介護現場で起こり得るさまざまなケーススタディをアニメーションで見ることができます。
介護の勉強をしていると、初めて聞く専門用語もたくさん出てきます。言葉だけで説明されると難しく感じることもありますが、登場人物が実際の場面で会話をしているのを見ることで、「こういうことなのか」とイメージしやすくなっています。
初任者研修や介護福祉士国家試験の学習にも活用していただけますが、制作に携わった私自身が、家族の介護を経験した今、特に利用してほしいと思うのは、資格取得を目指している方だけではありません。
介護の仕事をしているけれど、資格を取得する予定はない方。介護の一部だけを担当しているパート職員の方。新人教育の一環として、介護の基礎を知ってもらいたい方。
そうした「介護には関わっているけれど、介護について体系的に学ぶ機会がなかった」という方にも、ぜひ活用していただきたいと思っています。
すべてを暗記する必要はありません。介護福祉士を目指す人と同じレベルまで勉強する必要もありません。
それでも、介護について一つでも知っていることがあれば、実際に介助をするときの見え方が変わることがあります。「これはどういうことなんだろう」と戸惑ったときに、知っていることが一つあるだけで、少し落ち着いて考えられるかもしれません。
私自身、「動画でOJT介護」を制作するために介護を学んでいなければ、祖父の介護に直面したとき、もっと戸惑っていたと思います。
以前、お客様から聞いた「知っている・知らないで負担が違う」という言葉は、今になって自分自身の経験として実感しています。
介護の知識は、介護技術を身につけるためだけのものではありません。
知ることで、介護する人の気持ちが少し楽になることもある。相手のことを考える余裕が生まれることもある。
だからこそ、「動画でOJT介護」を、資格取得を目指す方だけではなく、介護に関わるさまざまな職員の方に活用していただけたらと思っています。




