介護の現場で最初に交わされる言葉。
それが、その後の介助の空気を決めてしまう—私たちは、制作を始めてすぐにそう確信しました。

今回ご紹介するのは、「動画でOJT介護」シリーズの第1本目に位置づけた
『身体介護業務における必須事項』
いわば“介護の一丁目一番地”として、最初に必ず押さえるべき土台を、一本の動画に詰め込んだ作品です。

テーマはシンプルです。
挨拶・声かけ・敬意・信頼関係。
どれも当たり前のようでいて、忙しい現場ほど、少しずつ崩れていく。
だからこそ、「基本を、基本のまま、徹底的に」映像化する必要があると考えました。


1. 「明るく、聞き取りやすく」—でも、それだけでは足りない

挨拶は、ただ声を出せば成立するものではありません。
明るく、相手に届く声で、聞き取りやすく—これは当然として。

私たちがもう一つ大切にしたのは、
“穏やかな心と笑顔”を、動画でどう表現するかでした。

文章なら「笑顔で」と一言で済みます。
しかし映像ではごまかしがききません。目の動き、口元、立ち姿、距離感。
ほんの少しの硬さが、視聴者に伝わってしまう。

悩んだ末の結論は、ある意味で拍子抜けするほど単純でした。
「なるべく、基本に忠実に」—それだけに集中する。
演出を盛るのではなく、基本の所作を丁寧に積み上げる。
その積み上げが、結果として“プロっぽさ”よりも説得力を生むと判断しました。


2. 「おはようございます」と「ありがとうございました」に込めたもの

朝の挨拶は、まず「おはようございます」。
この一言が、介護の一日を始める“扉”になります。

そして、介助した後には必ずお礼を言う。
私たちはこの徹底にもこだわりました。

「介助してあげた側が、なぜ“ありがとうございました”と言うのか」
—現場によっては、当然こうした疑問が出ます。実際、施設文化も違います。

それでも私たちがこの言葉を入れたのは、
介護を“作業”ではなく、ご利用者様への“敬意を含むサービス”として捉える姿勢を、一本目の動画で明確にしたかったからです。

「おはようございます」
「介助させていただき、ありがとうございました」

この二つの言葉が、現場の空気を静かに整え、信頼関係の下地になる。
私たちは、その“介護の根っこ”を動画の中に埋め込みました。


3. 名乗るだけで、警戒心はほどける

もう一つ、制作段階で何度も確認した要素があります。
それが「自分の名前を名乗る」ということ。

ご利用者様は、生活の場にいるとはいえ、見知らぬ人に身体を触れられる可能性がある状況に置かれています。
そこで名乗らない介助は、どうしても“不安”を生みます。

だから動画では、声かけの具体例を入れました。
たとえば——
「Bさん担当のCです」
こうした言葉が、画面上でも大きな文字で出るようにしています。

「言ったかどうか」だけでなく、
「言葉が視覚でも残る」ことで、学習効果が上がる。
視聴者が、現場でそのまま真似できる。
その一点を狙いました。


4. “声がけ”は、介助の技術そのもの

着脱介助ひとつを取っても、声がけには型があります。
「どちらの服にされますか?」
「こちらでよろしいですか?」
一言一言を重ねることで、利用者様が“自分で選べている”感覚を取り戻せる。

このパートは、撮影も編集も、正直かなり手間がかかりました。
同じ場面を何度も何度も撮り直し、最終的に一番いいカットを採用しています。

さらに私たちが重要視したのが、
「同じ目線の高さで話す」ということ。
立ったまま上から声をかけるのではなく、利用者様の目線に降りる。
その姿勢が、映像だけでも伝わるように撮っています。

話し方も同様です。
明瞭に、簡潔に、ゆっくり。
そして、難しい言葉や専門用語を避ける。

たとえば、
「端坐位になっていただけますか?」という専門用語は使わず、
「体を起こして座っていただけますか?」とする。
外国人職員にも伝わりやすく、現場で通用する言葉に整える。
この方針を動画の芯に据えました。


5. 丁寧すぎても、不自然になる

丁寧語は大切です。
しかし、丁寧さが行き過ぎると、逆に現場では不自然になります。

「ご遠慮なさらずにおっしゃっていただきたく存じます」
—丁寧ですが、日常会話としては硬すぎる。

だから動画では、
「何かあったらおっしゃってください」
といった、現場で“ちゃんと使える”自然な言葉に寄せています。

一方で、馴れ馴れしさも避ける。
「山田さん、身体どう?」
「そういうことしちゃ駄目だよ」
生活介護という側面から、現場で出がちな言葉ですが、
基本に立ち返れば、やはり慎重であるべきだと私たちは考えました。

「担当の伊藤です。体調はいかがですか?」
—このくらいの距離感が、敬意と現場の自然さの両方を保てる。
そんな意図も、この一本目に込めています。

そして何より、ご利用者様は人生の先輩です。
施設に入っていても、それは変わりません。
尊厳を守り、敬意を持って接する。
この当たり前を、映像として“当たり前に見える形”で示す。
それが、この動画の本質です。


6. 一本で全部は教えない。でも、「核」は全部入れる

もちろん、この一本を見るだけで身体介護のすべてが身につく、とは思っていません。
ただ、繰り返し見ることで、

  • 介護の現場で「絶対に外してはいけないこと」
  • やってはいけないこと
  • 信頼関係の作り方の“型”

この“核”が一通り揃うように設計しています。

いわば、基本の基本。
ここに応用編で肉付けしていく。
その土台として、現場で確実に役に立つ一本にしたい。
その思いで、最初の動画として制作しました。


7. 映像のプロではない私たちが、プロの現場に届けるために

正直に言うと、私たちは映像制作の専門会社ではありません。
声かけの音声も、私たちの社員が担当しました。
ナレーションとして完璧な声質ではないかもしれない。

それでも...
たった一つの声を録るために、何度も何度も録り直し、最も良いものを採用する。
この地味な積み重ねだけは、妥協しませんでした。

そして制作で最後まで悩み続け、最終的に大きな決断をしたのが、音声の方式です。
当初はプロのナレーションも検討しました。
しかし、その場合、制作費は一気に跳ね上がり、現実的ではありません。

結果として採用したのが、当時としては最高峰の自動音声ソフト
「日立 ボイスソムリエネオ」でした。

完成度は高い。体感で“98%”くらい。
でも、その最後の2%を埋めるのが、とてつもなく大変でした。
イントネーション、間、抑揚、言葉の切れ。
調整だけで何十時間も費やした記憶があります。


8. 字幕は、もう一つの“指導者”である

もう一つ、相当な労力をかけたのが字幕です。

画面の動き、音声のテンポ、字幕の表示タイミング。
三つを一致させる作業は、想像以上に繊細です。
ここにも何十時間もかけました。

さらに外国人職員が理解しやすいように、漢字にはすべてルビを振る
この作業も、積み上げると途方もないボリュームになります。

そして外国語版。
たとえばインドネシア語は、単語が長く、同じ情報量でも字幕が三行、四行になりがちです。
読みやすさを維持するために、表示時間や改行、画面内レイアウトを何度も調整しました。

さらに、日本語と外国語では「概念」が一致しない場面も少なくありません。
そのズレを吸収するために、言葉を選び、構成を微調整し、理解しやすい形へ寄せる。
ここにも力を注ぎました。


9. まずは30秒、見てください

ここに本編の一部、約30秒のサンプルカットを掲載します。
よろしければぜひご視聴ください。

介護の教育は、言葉だけでは伝わりにくい部分があります。
だからこそ、映像には価値がある。
そして、基本が基本として伝わる映像こそ、現場の力になる。

導入をご検討いただく際の判断材料として、ぜひご活用ください。