~厚生労働省の調査から見えた「教育」という課題~

概要

日本の介護現場では、外国人介護人材の存在がますます重要になっています。在留資格「介護」、技能実習、特定技能、EPA(経済連携協定)など、さまざまな制度を通じて日本の介護現場に入ってくる外国人職員は年々増え続けています。しかし、「外国人が増えた」という事実だけでは、現場の本当の姿は見えてきません。

数の増加の背後にある一人ひとりの声に耳を傾けたとき、初めて見えてくるものがあります。

厚生労働省が実施した「令和4年度 外国人材の介護現場における就労実態に関する調査研究事業」では、日本全国で働く外国人介護職員が、国家試験や日々の仕事について率直な思いを語っています。その内容を読むと、多くの人が抱えているのは単なる日本語の問題ではなく、「どう学べばよいのかわからない」という教育環境への不安でした。

今回は、この調査結果から見えてきた外国人介護人材の現状と、これから介護施設に求められる教育について、私たちなりに考えてみたいと思います。

「日本語が難しい」だけでは片付けられない現実

外国人介護職員が国家試験の勉強で感じていることとして、多く挙げられていたのは、漢字や専門用語の難しさでした。しかし、調査を読み進めると、それ以上に繰り返し出てくる言葉があります。

それは、

「何を勉強すればよいかわからない。」

「どう勉強すればよいかわからない。」

という声です。

日本語能力試験N2やN3に合格していても、介護の専門用語は日常会話とは全く異なります。

医学用語。

介護技術。

疾患名。

介護過程。

法制度や倫理に関わる言葉。

国家試験では、それらを理解したうえで事例問題を読み解き、自分で考えて答えを導き出す力も求められます。

外国人介護職員にとって難しいのは、日本語そのものではありません。

「介護の日本語」を理解し、それを現場で使いこなすことです。

たとえば「傾聴」「尊厳」「自立支援」といった言葉は、辞書を引いただけでは本当の意味を掴めません。背景にある日本の介護観、利用者への向き合い方まで理解して、初めて自分の言葉として使えるようになります。さらに、多くの外国人職員が「教材がほしい」「母国語で理解できる教材がほしい」と回答しています。

これは、日本語が苦手だから母国語を望んでいるという単純な話ではありません。

まず母国語で介護の意味を理解し、その後、日本語の専門用語と結び付けながら学びたいという、本質的な学習ニーズが見えてきます。

母国語で概念を掴む。

日本語で現場の言葉に置き換える。

この二段階の学びこそが、専門職としての土台をつくるのです。

学ぶ意欲はある。でも、学び方が分からない。

今回の調査で、私たちが特に印象に残ったことがあります。外国人介護職員の多くは、「介護の仕事が好き」「利用者の笑顔を見るとうれしい」「もっと頑張りたい」と答えています。介護という仕事そのものに魅力を感じている人は、決して少なくありません。

家族と離れて日本で働くという決断をした人たちだからこそ、「この仕事で成長したい」という思いは強いのです。

一方で、

「先生がいない。」

「独学では難しい。」

「無料で学べる環境がない。」

「仕事が終わってから一人で勉強している。」

という声も多く見られました。つまり、学ぶ意欲がないのではありません。学ぶ方法が分からないのです。

施設によっては勉強時間が週に数時間しか確保できないケースもあり、その時間も周囲が忙しく落ち着いて勉強できないという意見がありました。

夜勤明けの疲れた身体で、寮に戻ってから一人で参考書を開く。分からない漢字を辞書で調べているうちに、あっという間に時間が過ぎてしまう。そんな日々を過ごしている外国人職員が、全国にたくさんいるのです。

忙しい介護現場では、教育担当者も十分な時間を確保することが難しいのが現実です。先輩職員に質問したくても、みんな走り回っている。聞きたいことがあっても、「今は忙しそうだから後にしよう」と我慢する。そうしているうちに、何を聞きたかったのかも忘れてしまう。

だからこそ、「自分一人でも繰り返し学べる教材」が必要なのではないでしょうか。自分のペースで、自分のタイミングで、何度でも確認できる学習環境。

それが今、現場に求められているのだと感じます。

介護は技術だけではありません

仕事についての自由回答では、日本人職員への感謝の言葉も数多くありました。

「優しく教えてくれた。」

「仕事は大変だけど楽しい。」

「利用者の笑顔を見るとうれしい。」

「日本の文化を教えてもらえてうれしい。」

その一方で、

「早口で理解できない。」

「忙しそうなので聞き返せない。」

「人間関係が難しい。」

「評価されていないように感じる。」

という声もありました。

ここで感じたのは、介護とは単に技術を覚える仕事ではないということです。

利用者とのコミュニケーション。

職員同士の信頼関係。

相手を思いやる気持ち。

家族の想いを汲み取る力。

介護には、「人と人との関わり」が数多くあります。

だからこそ、日本独自の介護文化や、利用者への接し方、声掛けの意味まで理解することがとても重要になります。

たとえば、日本の高齢者に「おばあちゃん」と親しみを込めて呼びかけることが、文化によっては失礼にあたる場合もあります。

逆に、日本では当たり前の「お風呂に入りましょうね」という声掛けも、その柔らかな言い回しの意味を理解していなければ、ただの指示にしか聞こえません。

これは、教科書を読むだけではなかなか身に付きません。

映像を見ながら、実際の介助を確認し、何度も繰り返し学ぶことが大切になります。

言葉のニュアンス、表情、声のトーン、身体の向き。

すべてが介護というコミュニケーションの一部だからです。

外国人だけの問題ではありません

今回の調査を読みながら、私たちは一つのことを考えました。

これは、本当に外国人だけの問題なのでしょうか。

介護現場では、日本人の新人職員でも、

「何を覚えればよいかわからない。」

「専門用語が難しい。」

「利用者への声掛けに自信がない。」

「先輩に質問しづらい。」

という悩みを抱える人は少なくありません。

外国人介護人材は、日本語という壁がある分、その課題がより大きく見えているだけなのかもしれません。

つまり、外国人教育を考えることは、日本人を含めた介護教育全体を見直すことにもつながります。

誰にでも分かりやすい教材。

誰でも繰り返し学べる仕組み。

誰もが質問しやすい職場文化。

これらは外国人職員のためだけでなく、これから介護現場に入ってくるすべての新人にとって、大きな支えになるはずです。

私たちが目指しているのは、「学べる環境」をつくることです

私たちはこれまで、多くの介護施設や専門学校、外国人介護職員へのインタビューを重ねてきました。

その中で共通して感じたことがあります。

それは、「もっと勉強したい」と思っている人はたくさんいるということです。

しかし、その思いを支える教材や環境は、まだ十分とは言えません。

紙の教材は情報量が多く、動きを伴う介護技術を伝えるには限界があります。

集合研修は開催日時が限られ、シフト勤務の外国人職員には参加しづらい面があります。

だから私たちは、「動画でOJT介護」を制作しています。

動画は、一度見て終わる教材ではありません。

分からなければ止める。

もう一度見る。

実技の前に確認する。

実技が終わった後に振り返る。

通勤時間にスマートフォンで見返す。

その繰り返しができることに、大きな意味があると考えています。

動画の内容についても、介護技術だけを紹介するのではなく、医学・介護それぞれの専門的な視点から内容を検証し、介護現場で本当に必要とされる知識や技術を丁寧にまとめています。

なぜこの介助方法なのか。

どういう身体のしくみに基づいているのか。

利用者にとってどんな意味があるのか。

「やり方」だけでなく「意味」を伝えることを大切にしています。

また、多言語版についても単なる翻訳ではありません。

専門用語が正しく伝わるか。

介護現場で誤解なく理解できる表現になっているか。

母国語として自然に理解できるか。

一つひとつ確認しながら制作しています。

さらに現在は、多言語字幕だけでなく、母国語音声付き教材の開発も進めています。

字幕だけでは映像から目が離れてしまうという現場の声を受け、より実践的な学習環境を目指しているところです。

映像に集中しながら、耳から母国語で理解できる。

そんな学びの形を実現したいと考えています。

「人手不足」だけで終わらせないために

外国人介護人材の受け入れは、これからも増えていくでしょう。

しかし、本当に大切なのは採用することではありません。

安心して学び、安心して働き、介護という仕事に誇りを持ち続けられる環境をつくることです。

採用は、スタート地点にすぎません。

その後の育成、定着、キャリア形成まで見据えて、はじめて「受け入れ」と言えるのではないでしょうか。

厚生労働省の調査から見えてきたのは、「日本語が難しい」という一言では表せない現実でした。

学びたい。

成長したい。

利用者の役に立ちたい。

日本で長く働き続けたい。

その思いを持ちながらも、「どう学べばよいのかわからない」と悩む外国人介護職員が数多くいます。

私たちは、その現実を少しでも変えたいと考えています。

教育に近道はありません。

だからこそ、現場で繰り返し活用できる教材を通じて、一人でも多くの外国人介護職員が安心して学び、自信を持って利用者と向き合える環境づくりに、これからも取り組んでいきたいと思います。

外国人介護職員が笑顔で働ける現場は、日本人職員にとっても、利用者にとっても、必ず良い現場になるはずです。

参考資料:

厚生労働省 「令和4年度 外国人材の介護現場における就労実態に関する調査研究事業 報告書」 https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001142064.pdf

動画でOJT介護では、外国人介護職員の教育研修に真剣に向き合っています
▼動画でOJT介護
https://bsp.nai.co.jp/